日本も韓国も追加導入するイージス艦、巷では「イージスの盾」とか呼ばれいかにも強そう・性能が良さそうなイージス艦とは一体何なのか?
2014.04.07 共同交戦能力を追記しました。
最近、日本がイージス艦を2隻追加建造するとか、韓国が3隻追加建造するとか、何かとニュースに出てくるイージス艦という名称。巷では「イージスの盾」とか呼ばれ如何にも強そう・性能が良さそうなイメージが先行していますが、そもそもイージス艦とは何なのか?少し掘り下げてみたいと思います。
できるだけ専門用語を排しながら簡単に書いて「イージス艦ってそんなものなのか」とイメージが湧くよう書くつもりです。
イージスシステムって、そもそもなんなの?
そもそもイージス艦=イージスシステムとは、1960~80年代に米軍が開発した、新しい艦隊防空システムの総称で、何を目標に開発したのかと言うと、「ソ連軍のミサイル飽和攻撃」に対応するために開発されました。
ミサイル飽和攻撃というのは、米軍が実際に約100発の対艦ミサイルが艦隊に向け発射された想定で演習をし、現状での防空システムで対応できず限界を確認し、限りなく同時・短時間での連続ミサイル攻撃から艦隊(主に空母)を守るため米軍が出した答えが、「探知・評価・準備・決定」のプロセスをシステム化し自動化するという答えでした。
従来のシステムでは、目標(複数)を探知した場合、どの目標が危険度が高いのか?どの目標から対応するのがいいのか?全てオペレーター(人)が判断していました。そして目標が決定した後、ミサイルへの情報入力等もオペレーター(人)が行い、最終段階の攻撃許可も責任者(人)が判断を下します。
もっと分かり易く、くだけた表現でお伝えします。 [従来の場合] オペ「艦長! 接近する正体不明機を発見(どーすんだよ?早くしてくれ・・・)」
艦長「何? 近くに友軍がいないか確認しろ(味方だったら俺の首が飛ぶ・・・)」
オペ「確認します!(めんどくせーな・・・)」 エートーイマコノヘントンデナイヨネ?・・・・
オペ「確認しましたが友軍ではないようです(早く判断してくれ・・・)」
艦長「よし、攻撃準備をしろ(大丈夫だよな?確認もしたし・・・)」 カチャカチャ・・・・・
オペ「攻撃準備完了、指示があるまで待機します(早くしろ・・・)」
艦長「よーし発射~~~!(もうしらん、何かあったらコイツのせいだ)」
オペ「発射します。発射~~~!(チッ、チキン艦長め)」 ゴゴゴゴゴ~(ミサイルの発射音) [イージスシステムの場合] システム「タンチシマシタ・・・」
システム「コレハキケンデス、コウゲキジュンビカンリョウ・・・」
システム「コウゲキカイシ・・・」 ゴゴゴゴゴ~(ミサイルの発射音) 艦長・オペ「おぉぉぉ」 分かり易く言えばこんな感じです。人が報告し、人が判断し、人が命令を下し、人が命令を実行する、人のプロセスを極限まで無くし目標に対する対処時間を短くすれば、より多くの目標へ対処が可能になります。これがイージスシステムの考え方です。
イージスはレーダーの性能が凄いって聞くけど?
イージスシステムのコンセプトは、もうわかったと思います。ではそのコンセプトを実現させるために、新しい装備品がいくつも開発されました。その代表格が「AN/SPY-1」レーダーです。分かりにくい?
写真の八角形の板みたいなものと覚えておいてください。 特長は、従来のレーダーのようにアンテナをぐるぐる回さなくてよいので、アンテナをより大型化できる点。探知距離が非常に長く、同時に複数の目標を追尾でき、その数は200以上と言われています。
開発当時は従来のレーダーに比べて画期的すぎ、そのインパクトのせいで現在でも「イージス艦といえば探知能力が凄い」と思われがちですが、所詮1980年代の技術でバージョンアップを繰り返し性能の向上に努めてはいますが、現在ではこなれた技術として各国が研究・開発・実用化され、
同時追尾だけで言えば500以上追尾可能なレーダーが既に実戦配備されています。 多くの方が一番勘違いしているのは、ここだと思うのですが、「イージス艦は強い、レーダーが凄い」のではなく、イージスシステムのコンセプトが良く、その斬新なコンセプトを具現化させるための装備を開発し、それらを統合し実用レベルまで完成させ実現させたことが凄いのです。 大事なことなのでもう一度書きます。イージス艦のレーダー自体は、非常に性能は良いですが、レーダー単体で見れば既にずば抜けた性能(世界最高の性能)を保持しているわけではありません。 だからと言ってダメなわけではなく、「AN/SPY-1」レーダーを動かすソフトウェア開発に投資し続け、更新し続けることができる米国の超絶な軍事費のお蔭で、ソフトウェアの更新によって汎用性を獲得し、元からの基本性能の高さも相まって、他国が基本性能で「AN/SPY-1」レーダーを上回るものを開発しても、トータル性能で第一線の性能は余裕で維持しています。
共同交戦能力を獲得したイージス艦はさらに効率がいい
イージスシステムを積んだ米国や日本、韓国のイージス艦は「AN/SPY-1」レーダーによって最大、同時追尾が200もの把握できますが、同時に200の目標に対して攻撃が出来る訳ではありません。
イージス艦が同時に対処(攻撃・迎撃)可能な処理数は約12目標までです。それはミサイルを目標にまで誘導指示するためのイルミネーター(射撃指揮システム)が、目標までの誘導が終わるまで次の目標へ指示が出せない為、イルミネーターの装備数=同時対処数になるからです。
同時対処可能な12という数字はずば抜けて優れているわけでなく、非イージス艦でも8~12目標までの同時対処能力は備えています。ここで新しい専門用語として「共同交戦能力」が登場します。これは複数の攻撃目標をリアルタイムで複数の味方で効率良く対処する能力のことを言います。
もっと分かり易く、たとえ話でお伝えします。 [共同交戦能力がない場合] 各艦(A艦・B艦)が個別に同じ複数(あ・い・う・え・お)の攻撃目標を捉え、危険度を評価し危険度が高い順に
個別に攻撃を開始したとします。この例え話では同時処理可能数は2と限定します、分かり易くするために。
A艦での危険度の評価は「あ・い・う・え・お」
B艦での危険度の評価は「う・あ・い・お・え」 この評価順にA・B艦が
個別にミサイルを発射します。
A艦は目標「あ・い」に向けて対空ミサイルを発射します。
B艦は目標「う・あ」に向けて対空ミサイルを発射します。 A・B艦とも
「あ」に向けてミサイルを発射しており
ロスが発生しています。
[共同交戦能力がある場合] 各艦(A艦・B艦)が個別に同じ複数(あ・い・う・え・お)の攻撃目標を捉え、危険度を評価し危険度が高い順に
共同で攻撃を開始したとします。同じく同時処理可能数は2と限定します。
A艦での危険度の評価は「あ・い・う・え・お」
B艦での危険度の評価は「う・あ・い・お・え」 この評価順にA・B艦が
共同で効率的にミサイルを発射します。
A艦は目標「あ・い」に向けて対空ミサイルを発射します。
B艦は目標「う・お」に向けて対空ミサイルを発射します。 もうお分かりですね?
1回の最大交戦数2×2隻=4目標に対しロスなく攻撃を行っています。
実際に100や200の目標に複数の味方で同時対処する際、もっと複雑になりロスが発生しやすくなりますが、共同交戦能力があれば、同時に対処(攻撃・迎撃)可能な処理数を無駄にすることなく効率的に戦闘が可能になるのです。
この「共同交戦能力」はイージスシステムだから可能なわけではなく、非イージス艦でも可能であり、共同交戦能力の枠組みは艦船に限らず、航空機(早期警戒機や前線にいる戦闘機からの情報など)や軍事衛星の情報などあらゆる情報がリンクしより効率的なシステム構築を目指し開発が続いています。
ここで解説したかったのは、イージス艦が一艦で何十何百の目標へ同時に攻撃できるのではない。と言うことと、イージス艦と言えども、共同交戦能力が無ければ、ただの単一高性能艦にしか過ぎないということです。
残念なことに、日本(もちろん韓国も)はこの「共同交戦能力」は備えていません。 まぁ共同交戦能力が必要になるほどの危機とえば、中国とガチンコで戦争をやる場合ぐらいにならなと、必要ではないかもしれません。北朝鮮相手には不必要かもしれませんね。
尖閣を巡って中国と本気で衝突した場合、中国は数で押してくるのは明白なので、戦闘機や艦船から一斉に日本の護衛艦隊へ向けて対艦ミサイル100発ほどの飽和攻撃を食らえば、共同交戦能力のない日本の護衛艦隊では、いくらイージス艦が高性能だといっても、防ぎいれないかもしれません。
共同交戦能力の補足
よく勘違いされやすいのが、「共同交戦能力」は米軍や自衛隊、韓国軍が装備する「リンク11」「リンク16」などの戦術データ・リンクとは全く別物です。リンクでやり取りされるのは、味方の位置情報やレーダーで捉えた目標の情報などであって、真の共同交戦能力を得るには、秒単位でのリアルタイムな情報のやり取りが必要で、米軍では「DDS(高速・大容量のリアルタイム・データ・リンク)」と「CEP(受信したデータを分析し、自艦装備のセンサーからの情報とともに融合する情報処理システム)」を備え共同交戦能力を実用化しています。
なので自衛隊も韓国軍も米軍と同等レベルの「共同交戦能力」はもっておらず、海上自衛隊が独自開発した「戦術情報処理装置」を通じて似たようことを実現させていますが、建造された時期によりタイプが異なり(性能がバラバラ)、全艦に装備されておらず、航空自衛隊とは「リンク16」のみで、自衛隊として統一されていません。
現在「リンク22」の開発が行われおり、将来的にはこれに「DDS」と「CEP」を統合するとかしないとか。しかも「リンク22」はNATO向けに開発しているので、日本は開発にすら参加していないので実用されても日本向けに「リンク22」が回ってくるまで相当時間がかかると思われます。
管理人のつぶやき
一気に全部は書くと長くなる(書けないが本音)ので、何回かに分けお送りします。軍事ネタに詳しい方には物足りないかもしれませんが、ライトな感じでまとめてみました。「イージスシステムの火器管制は全自動モード以外にも人が割り込んで最終決定を下したりできるんだYO」などの本気のツッコみは許してください。
「韓国ネタじゃねーじゃねーか」と怒った方にはすいません。たまに韓国以外の記事を書くとリフレッシュできるので書かして下さい(涙)、一応もう少し書き進んだら韓国のイージス艦の話も出す予定です(多分)。
誤解が強いからミリオタが各所で啓蒙してるよね。
同盟国などとのデータリンクとかも含めたシステムだって