共同交戦能力について、もう少し説明を加えたほうがよさそうだと感じたので補足して、少し掘り下げてみたいと思います。できるだけ専門用語を排しながら簡単に書いて「共同交戦能力ってそんなものなのか」とイメージが湧くよう書くつもりです。
※分かり易くするために、例え表現や勝手に命名した語句を多用しています。正式な名称とは異なる場合があるのでご注意ください。
共同交戦能力によく似た簡易のシステム
共同交戦能力について、もう少し説明を加えたほうがよさそうだと感じたので補足します。前回の記事で「日本のイージス艦を含めた海上自衛隊には共同交戦能力がない」と説明しましたが、海上自衛隊もリンク16や独自開発した「戦術情報処理装置」を通じて「共同交戦能力に近いようなシステム」は存在する思います。
分かり易くするため、「真の共同交戦能力」と「共同交戦能力によく似た簡易のシステム」と勝手に定義して、何が違うのか分かり易く説明します(あくまでも概念の解説で、例えの基準点を艦船に設定します)
米軍以外の軍が備えているであろう
[共同交戦能力によく似た簡易のシステム]とは、 分かり易く例えると
「鬼ごっこをしていて、仲間と携帯電話で状況を報告しあう」ようなもので、得た情報をもとに自分が次にどうするべきか個人で判断し、行動するような感じで、事前情報がないより、各段に動きがよくなります。しかもある程度仲間と時間をかけて話し合えば共同で敵を追い詰めたりもできるでしょう。
米軍が備えているであろう[真の共同交戦能力]とは、 分かり易く例えると
「鬼ごっこをしていて、自分と仲間が得た情報が自動的にリアルタイムで相互共有され、仲間がどの敵を追っかけているのかも分かる」ようなもので、携帯電話で言葉を通じて情報を伝え合うより効率がよく、味方がどの敵を追っかけているのかも分かるので無駄がなく、大規模な共同作戦も立案しやすく→必要な仲間に一斉伝達→即実行できます。
大体こんな感じだと思います。自衛隊に共同交戦能力がないと言ったのは、
米軍が実現させているレベルの「共同交戦能力」がないと言う意味であって、全世界を見渡しても米軍並みな「共同交戦能力」を実現させている国はどこにもないはずです。(一応良く似たコンセプトのリンク22というシステムが米国とNATO間で共同開発中です)なので、自衛隊に限らず、リンク16を装備している国の軍隊ならば「真の共同交戦能力」に比べてアナログな「共同交戦能力よく似た簡易のシステム」は備えていると思います。
自衛隊も真の共同交戦能力を獲得すべきか?
では、自衛隊も「真の共同交戦能力」を獲得すべきのか?非常に悩める問題です。上記でも書きましたがある程度の規模が無いと効果が実感できません。例えば、敵機(2~3機)が自艦隊(数隻)に向けて攻撃してくるぐらいの状況では、ほぼ意味がなくたとえ話ではないですが、携帯電話での情報のやり取りで十分連携がとれるでしょう。
やはり何百機もの大編隊VS何十隻もの大艦隊ぐらいなら効果がありそうです。しかし第一・二次世界大戦みたく数の勝負の時代から、少数精鋭へと変化していて、おのずと一つの兵器コストが何十~何千倍に高騰しています。この状況下で仮に戦時体制に移行したとしても、世界大戦の時のように兵器を量産し数の勝負に移行することは難しいと思います。
ではイージスシステムや共同交戦能力の開発する原因にもなった、「ソ連による米国艦隊へのミサイルによる飽和攻撃」という考え方が今でも有効なのか?と言う疑問が生じます。昔のように自由落下型爆弾を何百万発も生産できたように、対艦ミサイルも大規模量産できればよいのですが、現代ではミサイル一発でも大変高価です。
一番安い爆弾と対艦ミサイルの価格の一例
・Mk-82・・・500ポンド爆弾(単純な一番安い爆弾):1発約1万~2万ドル(約100万~200万円)
・対艦ミサイル「ハープン」:1発約100万前後ドル(約1億円前後)
・対艦ミサイル「93式空対艦誘導弾」:1発約1.5億円前後 米国の空母を要する部隊には通常9隻のイージス艦(その内2隻はタイコンデロガ級で日本や韓国が持っているイージス艦より高性能で同時にミサイルを誘導できる数が約16発と多い)が配備されています。単純計算で同時に約116発の迎撃用ミサイルを打ち上げ誘導できます。これに共同交戦能力がプラスされれば、ロスなく迎撃ができるので、飽和(処理能力を超える)させるためには、一度の攻撃で300発ほど同時発射すればいいのかな?1機あたり2発づつ対艦ミサイルが詰めると計算して150機の攻撃機が必要になり、その上ミサイルを発射しようと近づくまでに空母の艦載機で迎撃をうけるでしょうから、実際に300発発射するためには、余裕をみて2倍の攻撃機が必要になると仮定します。
ということは、300機の攻撃機と600発の対艦ミサイルがあれば、米国の空母艦隊をミサイル飽和攻撃で殲滅することができます。 1回の攻撃で600発の対艦ミサイル=約600億円+撃墜される攻撃機90機(数の予想が出来ません、うーん仮に30%が艦載機とイージス艦の迎撃によって撃墜されると仮定)1機が約30億円(F16の米国向け機体価格で計算)で約2700億円、合計3300億円ぐらいが飛んでいきます。 こんな攻撃を実際に1回でも行える国は、米国とロシアに中国ぐらいなもんです。しかもこの規模の攻撃が必要になるのは米国の機動部隊を潰す時ぐらいで、米国はこの規模艦隊を10個も編成できる戦力も持っています。
米国の空母艦隊を全部潰そうと思えば対艦ミサイルの在庫が6000発+攻撃機の消耗分900機が必要になり約3.3兆円ほどぶっ飛びます。対艦ミサイルの在庫を常時6000発も持っている国はこの世に存在しないと思います。 もう少し身近な設定をすると、日本の護衛艦隊(ヘリ空母型の護衛艦1隻+イージス艦1隻+ミサイル護衛艦6隻)をミサイル飽和攻撃で消滅させようと韓国空軍が攻撃を仕掛けた場合、日本の護衛艦隊の同時にミサイルを誘導できる総数は大体50発前後(凄い適当)。自衛隊の共同交戦能力が限定的なため、ロスがありますがややこしくなるので無視。飽和させるのに150発ほど対艦ミサイルが必要になります。余裕を持って300発(約300億円)×4回(護衛艦隊は4つあるので)=1200発、日本の護衛艦隊には迎撃が可能な艦載機がありませんので攻撃機の迎撃がどうなるかは不明ですが、
飽和攻撃に必要な対艦ミサイルの数だけみても、韓国空軍の倉庫に1200発もの対艦ミサイルがあるとは思えません。飽和攻撃で殲滅させようとしても物理的に不可能です。 あくまでも「飽和攻撃」を分かり易くするため迎撃率100%で計算した仮定した話であり、実際には100%の迎撃率などあり得ませんし、航空機以外に潜水艦や水上艦からの攻撃も考慮すれば全然違う結果に。ここで言いたかったのは、「ミサイル飽和攻撃」という理論があまりにも「現実にマッチしていない」ことを伝えるために、
馬鹿みたいに分かり易い例え話にしてみました。
共同交戦能力はオーバースペック?
これからも兵器は性能が向上しコストも上昇しつづけていますが、生産数及び配備できる実際の数は減っています。どちらかと言うと「一発必中」へどんどん集約されていくのだと思います。仮にマッハ10で飛ぶ対艦ミサイルが実現されれば、現在の迎撃ミサイルでは迎撃不可能なので、例え1発1000億したとしても、10発あれば米国の機動部隊を潰せます。そうなると従来の対艦ミサイル6000発+消耗分の攻撃機900機より安上がりに済みます。
このように数で押す「飽和攻撃」はコストが掛かるので、「少数精鋭」+「一発必中」化が進めば、米軍が実現させた何十隻もの艦船と何百機もの航空機が共同で効率よく交戦できる「共同交戦能力」は、オーバースペック過ぎるor米軍以外に必要がないのかもしれません。 ただし日本が中国と尖閣諸島を近海を交戦区域として戦闘が起こった時のみ、海上自衛隊に護衛艦隊へ飽和攻撃が可能(中国本土より近いので、新旧合わせてかなりの数の航空機が使用できる)になるため、あった方がよいのかもしれません。米軍並みの共同交戦能力がなくとも4つの護衛艦隊を1つの艦隊(旧海軍の連合艦隊ぽく)にまとめて、派遣すればイージス艦が合計8隻+ミサイル護衛艦24隻になって、同時にミサイルを誘導できる総数は大体180発前後になるので、簡単には手が出せないと思うので急いで導入する必要はないともいます。
しかし結局は、技術が進化し価格がこなれた頃に、世界各国の軍で当たり前のように普及しているかもしれません。
コメントにこんな書き込みがありました。
新型汎用護衛艦である『あきづき』型はどうなんでしょうね。あれはイージスを側面援護する為の防空艦じゃあなかったでしたっけ。そうするとイージス艦以外の伴走DDG艦同士ではデーターリンクによる共同交戦能力が必須だと思うのですが。
まずデータリンクによる、米軍並みな「共同交戦能力」不可能です。上記でも書きましたが、共同交戦能力を実現させるにはデータリンク16の数百倍の回線スピードと、自艦以外の異なる機器や種類が違うセンサーが捉えた情報を、受け取った時に自艦センサーが捉えた情報と統合する必要があり、例えるなら「MS製のオフィスデータ」と「昔のワープロ時代のデータ」と「一太郎のデータ」をリアルタイムで受信しながら、一つのデータとして変換し表示させる必要があり、異なるデータを変換する装置の開発がとても難しいのだと思います。米軍のように100%自国開発していればまだマシなのでしょうが、それ以外の国になると、中途半端に米国製と国産が混在しデータの統合が難しいのと、米国製の装置のデータがブラックボックス化している可能性もあり、手が出せないのではないでしょうか?
次に、あきづき型建造時に要求されたのは「僚艦防空」であって、イージス艦を除いて日本の護衛艦に求められるのは個艦防空です。この僚艦防空と言うのは「共同交戦能力」とは全く別発想で、自艦と僚艦として指定される船を含めて、標的の危険度を評価して、対処する能力のことだと思います。通常標的の危険度の評価は、飛んでくる目標の軌道を計算し着弾時間の早い順に対処してくるプロセスに、ある程度近距離にある目標物(僚艦)への標的の軌道計算が行えるというのが新しい要素だと思います。
因みに「あきづき型護衛艦」はDD型(汎用護衛艦)のため、スタンダードミサイル(SM2:射程約70㎞)の運用能力がありません。DD型は発展型シースパロー(ESSM:射程50㎞)を搭載しています。射程は短いのですが着弾までイルミネーターで誘導する必要がなく、「あきづき型」では同時に6目標まで対処できるみたいです。
とにかく、僚艦防空とはあきづき型護衛艦単体で完結してしまう能力です。
因みにミニイージス艦とは、むらさめ型護衛艦がフェーズドアレイレーダー(一面式の回転型)を搭載したことによって、メディアが同時期に就役した、こうごう型護衛艦が「イージス艦=フェーズドアレイレーダー」みたいにメディアが言いふらしたため、むらさめ型護衛艦が「国産のフェーズドアレイレーダー(+垂直発射型の発射機もこんごう型に次いで搭載)を搭載したミニイージス艦」と誤認されただけです。
むらさめ型が搭載したフェーズドアレイレーダーは単純に捜索用レーダーをフェーズドアレイ式にしたものです。イージス艦のイージスと言う意味は前回解説したとおりなので、少なくとも日本にミニイージス艦と呼ばれる艦種やシステムは存在しないというのが正確な情報です。
管理人のつぶやき
軍事ネタに詳しい方には物足りないかもしれませんが、めっちゃライトな感じでまとめてみました。「スーパーホーネットなら対艦ミサイルを4発同時に詰めるんだYO」などの本気のツッコみは許してください。
ダミーを混ぜたらどうなるのだろうか。